【ニュースリリース】レプリコン(次世代mRNA)ワクチンの副反応を軽減する新技術を開発:5-メチルシチジン修飾で自然免疫応答を制御し、安全性の向上に寄与[Science Translational Medicine論文]

2025年11月13日|VLP Therapeutics, Inc.

VLP Therapeutics, Inc.(VLPセラピューティクス、米国メリーランド州、CEO:赤畑渉、以下「VLPT」)とボストン大学、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究チームは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するレプリコン(次世代mRNA)ワクチンに5-メチルシチジン(5mC)という化学修飾を組み込むことで、ワクチンの副反応を引き起こす自然免疫応答を抑制しつつ、高い免疫効果を維持できることを明らかにしました。

本レプリコン基盤技術は、RNAワクチンの副反応を抑えながら、COVID-19及び他の病原体に対しても獲得免疫(T細胞・B細胞応答)を効率的に誘導できる新しいワクチンの開発に寄与することが期待されます。

本研究は、NIHの支援を受けて実施されたものです。本成果は、米科学誌 Science Translational Medicine 電子版に米国東部時間11月12日付けで掲載されました。

研究の背景

mRNAワクチンはCOVID-19パンデミックにおいて大きな成果を上げましたが、発熱や倦怠感などの副反応(反応原性)が課題とされてきました。これらの副反応は、RNAが体内で「異物」として認識され、過剰な自然免疫応答が引き起こされることが原因と考えられています。

レプリコン(次世代mRNA)は、少量で長期間にわたって抗原を発現できる次世代ワクチンプラットフォームとして注目されていますが、修飾塩基の導入による免疫制御はこれまで困難とされてきました。

研究の成果

本研究チームは、COVID-19のスパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)を抗原とするレプリコンワクチンに5mC修飾を導入し、細胞および動物(マウス)モデルで検証しました。結果、

  • 5mC修飾したレプリコンワクチンは、抗原の発現が維持されたまま、
  • 副反応の主因であるI型インターフェロン(IFN-I)の誘導を末梢血単核細胞で抑制し、
  • 特にIFN-Iの主な産生源である形質細胞様樹状細胞(pDC)で自然免疫応答が低減する事で動物実験において副反応が軽減される

ことを明らかにしました。一方で、抗原提示細胞では依然として十分な免疫活性化が維持されており、免疫効果を損なうことなく安全性を高められることが示されました。

VLPT 赤畑渉 CEO コメント

「今回、ボストン大学とNIHの先生方と協力して、5mC修飾レプリコンはpDCによる過剰なIFN-I産生を抑制しつつ、マクロファージなどの抗原提示細胞では自然免疫を維持できることを明らかにすることができました。この基盤技術は、COVID-19に限らず、インフルエンザや将来のパンデミック病原体に対するワクチン開発にも応用できる可能性があると考えています。今後、低用量・高効率・低副反応という理想的なワクチン設計に寄与することを期待しています」

論文情報

  • 論文名: Incorporation of 5-methylcytidine alleviates RIG-I mediated innate immune response to self-amplifying RNA vaccine
  • 雑誌名: Science Translational Medicine
  • 著者: Wataru Akahata*, Mai Komori, Amber L. Morey, Andrés A. Quiñones-Molina, James B. Hood, Josiane Fofana, Luis Romero, Elizabeth Peters, Jonathan D. Webber, Tyler Meeks, Paulina A. Przygonska, Isabel Steinberg, Ellison Ober, Tae Kim, Daniel C. Rogan, Kenta Matsuda, Jonathan F. Smith, Suryaram Gummuluru, Mark Connors, and Hisashi Akiyama*(*責任著者)
  • DOI: 10.1126/scitranslmed.adz227
  • URL: https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.adz2276
  • 公開日: 2025/11/12

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VLPセラピューティクス・ジャパンについて

VLP Therapeutics Japan株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:赤畑渉)は2020年、米国VLPセラピューティクスの100%子会社(当時)として設立されました。2024年現在、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)*1、AMED先進的研究開発戦略センター(SCARDA)*2 及び厚生労働省*3 の支援により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等に対するワクチンを、VLPセラピューティクス保有の自己増殖RNA(レプリコン)技術を用いて研究・開発中です。

  1. AMED事業名:令和2年度「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」(2次公募)/課題名「自己増殖RNAテクノロジーを用いたわが国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」
    https://www.amed.go.jp/koubo/11/02/1102C_00002.html
  2. AMED SCARDA事業名:令和5年度 「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業(一般公募)」/課題名「レプリコンプラットフォームテクノロジーを用いた今後出現する株を含めたユニバーサルコロナワクチン開発」
    https://www.amed.go.jp/koubo/21/02/2102C_00004.html
  3. 厚生労働省:ワクチン生産体制等緊急整備事業(第2次公募)採択結果
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20482.html
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VLPセラピューティクスについて

VLP Therapeutics, Inc.(本社:米国メリーランド州ゲイサーズバーグ、CEO:赤畑渉)は2013年、世界の「満たされていないメディカル・ニーズ」に応え、従来のワクチン療法を一変する革新的な治療法を開発するため、赤畑渉が上野隆司博士、久能祐子博士らと設立しました。2024年現在、がんに対する治療ワクチンと、マラリア、デング熱、インフルエンザ等感染症に対する予防ワクチンの研究開発を進めています。

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赤畑渉(あかはたわたる)について

1997年、東京大学教養学部卒業、京都大学人間・環境学研究科入学。京都大学ウイルス研究所の速水正憲教授のもとHIVワクチンの研究開発に携わり、2002年に博士号取得。同年~2012年、米国立衛生研究所(NIH)ワクチン研究センター勤務。2009年からウイルス様粒子(VLP)を使ったチクングンヤ熱ワクチンを開発。2010年、同ワクチン研究成果を米科学誌Nature Medicineで報告、VLPが表紙を飾る*1。2012年、同ワクチン他3種類のアルファウイルスワクチン開発でNIH最高賞Director’s Award受賞。現在、VLP Therapeutics, Inc. CEO・創業者、VLP Therapeutics Japan株式会社 代表取締役・創業者・最高研究開発責任者、東京工科大学 客員教授、京都大学医学研究科 特任准教授、株式会社フェニクシー スペシャルフェロー。

  1. Wataru Akahata et al. A virus-like particle vaccine for epidemic Chikungunya virus protects nonhuman primates against infection. Nature Medicine 16, 334–338 (2010)
    https://www.nature.com/articles/nm.2105